No.07 _ 認知症をざっくりと理解する

 

 

 

 

 

 

 

認知症の介護に携わる上で「認知症を理解する」ことは不可欠です。

 

 

今回は認知症をざっくりと理解するためにお話を進めてまいりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 認知症は“状態”を表す言葉であり、いろいろな原因疾患がある

 

 

ー 認知症の定義

 

認知症とは「何らかの脳の障害により日常生活に支障を来した状態」と定義されます。

 

 

 

ー 認知症の原因疾患

 

 

認知症とはあくまでも状態を表す言葉であり、疾患名ではありません。認知症という状態をもたらす様々な疾患があるということです。

 

 

認知症の原因となる疾患は多岐にわたり、概ね以下のように分類されます。

 

 

 

 変性疾患による認知症 … 脳内で作られるタンパク質の異常な凝集体が神経細胞に障害を与えて生じる認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など)

 

 脳血管障害による認知症 … 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などによって引き起こされる血管性認知症

 

 脳の直接的なダメージによる認知症 … 脳腫瘍、外傷による脳の損傷、正常圧水頭症など

 

 

 全身疾患による認知症 … 甲状腺疾患、肝機能障害などによって引き起こされる認知症

 

 

 

このように脳の機能低下を引き起こすものであれば、どのような疾患であれ認知症の原因になり得ます。

 

 

そして、認知症の原因疾患になるものは60種類以上にも及ぶと言われています。

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 認知症は不可逆である

 

現時点では、認知症を治す、あるいは、改善させることは難しいと考えられています。障害を受けてしまった脳の機能改善は難しいからです。

 

 

 

また、認知症は加齢と密接な関係があり、基本的には時間の経過とともに悪化していきます。

 

 

加齢による脳機能の衰えは避けられないのです。

 

 

 “治る”認知症

 

一方、認知症のような症状を来す疾患の中には、治療が可能な疾患があります。以下に2つの例を示しましょう。

 

 

① 慢性硬膜下血腫

 

慢性硬膜下血腫は、頭部の打撲(必ずしも重傷ではない)の後、概ね1~2ヶ月後に脳の表面に血液が溜まり、脳を圧迫して症状(認知機能の低下、手足の麻痺、意識障害など)を引き起こすものです。

 

 

慢性硬膜下血腫と診断がつけば、脳神経外科において短時間の手術(30分ぐらい)で血腫を洗い流し、術後、すっかり症状が回復することもまれではありません。

 

 

② 甲状腺機能低下症

 

甲状腺から分泌されるホルモンが低下することによって、全身の代謝が低下する疾患です。易疲労、むくみ、動作緩慢などの症状とともに記憶障害などの認知機能低下が生じます。

 

 

甲状腺機能低下症を疑い、血液検査で甲状腺関連のホルモン値を計測すれば、診断することができます。そして、その原因を特定した上で、甲状腺ホルモンを補充することで改善することが可能です。

 

 

 

 

いくら治る可能性があると言っても、治療をせずにそのまま放置すれば、やがて不可逆な認知症に陥ってしまいます。

 

 

大切なことは、認知機能障害には治る可能性のある疾患が含まれており、まずは医療機関で原因疾患を調べてもらうことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 認知症の症状:中核症状と周辺症状

 

認知症には大きく分けて2つの症状があります。

 

 

それは、中核症状周辺症状です。

 

 

 

 

 中核症状とは

 

中核症状とは、脳の障害によって引き起こされる認知機能障害そのものです。

 

 

具体的に見ていくと、

 

 

◆ 注意障害 …… 適切に注意を向けることができない、注意を持続することができない、注意を切り替えることができない(例:火の元を離れて鍋を焦がす、信号を見落とす、など)

 

 

◆ 実行機能障害 …… 目的にかなう行動をとることができない、状況の変化に対応できない(例:料理をつくることが難しくなる、計画して実行することが難しくなる、など)

 

 

◆ 記憶と学習の障害 …… ものごとを覚えられない、思い出すことができない

 

 

◆ 見当識障害 …… 時間、場所、人物を正しく認識することが難しくなる

 

 

◆ 失語(言語の障害) …… 言葉を理解できない、流暢に話すことができないなど、言語機能が損なわれる

 

 

◆ 視空間認知障害 …… 空間的な位置の把握が難しくなる(例:通いなれた道に迷ってしまう、図形がうまく書けなくなる、など)

 

 

◆ 失行 …… 運動機能に問題がないにもかかわらず、ある行為をしようとしてもできない状態(例:衣服をうまく着られない、など)

 

 

◆ 社会的認知の障害 …… 人の気持ちに配慮することができなくなる、表情を読み取ることができなくなる、周囲から「人柄が変わった」と感じられる

 

 

 

日常生活における支障は、これらの障害が組み合わさって生じます。

 

 

例えば、片付けという行為には、

 

 

①注意を払って

 

 

②片付ける場所を決め(視空間認知

 

 

そして、それを③記憶しておく必要があります。

 

 

 

認知症の患者さんはまさに、これら3つの能力が低下しますので片付けができなくなるのです。

 

 

 

 周辺症状とは

 

周辺症状は、精神症状や行動障害に当たり、認知症の行動・心理症状(BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia)とも呼ばれます。

 

 

次のようなものがあります。

 

 

◆ 幻覚・妄想

 

 

◆ 徘徊

 

 

◆ 不穏・興奮・攻撃性

 

 

◆ 睡眠・覚醒の障害(昼夜逆転)

 

 

◆ 不安

 

 

◆ うつ状態

 

 

◆ 自発性の低下(アパシー)

 

 

◆ 収集癖

 

 

◆ 不潔行為

 

 

いずれも患者さん、そして、家族の生活に大きな影響を及ぼす症状です。

 

 

 

周辺症状についていくつか例をみていきましょう。

 

 

 

ー 妄想・攻撃性

 

周囲の状況がうまく把握できず不安が募る中、ものごとを被害的に捉え、攻撃的な言動をとってしまいます。例:もの盗られ妄想 …… 自分でものをなくしたにもかかわらず、他者(多くの場合一緒に暮らす家族)が盗ったと確信し、攻撃する。

 

 

 

ー 不安・抑うつ・自発性の低下

 

これまでできたことができなくなり、できたとしても、時間がかかり、より努力を要するようになります。そのような状況に置かれれば、誰だって不安やいらだちを感じ、疲れやすくなり、気分が滅入ります(今まではできたのに…)。ものごとを積極的に行う気持ちは失せるでしょう。

 

 

 

ー 収集癖

 

人は「ものが十分にある状態」に安心を覚えるため、ものを集めて身の回りに置こうとします。

 

 

 

ー 不潔行為

 

排泄の機能が衰えて、下着を汚すこともあります。羞恥心が失われるわけではないので、その下着を隠そうとします。判断力の低下がそうした短絡的な行動を引き起こしてしまいます。周囲から失敗を指摘されれば、汚れた下着はより深く、遠くに隠されることになります。

 

 

 

 

いかがでしょうか。できるだけ患者さんの側に立って周辺症状を解説してみました。

 

 

患者さんは、置かれた状況の中で本人なりに何とかしようとしますが、かえって状況がおかしくなってしまう、あるいは、うまくことが運ばずに精神的につらい状況に陥っている、ということです。

 

 

まずは患者さんに能力の低下があること(中核症状の存在)を理解した上で、周辺症状が生じるプロセスを読み解いていくことが重要です。 

 

 

 

そこに患者さんへの対応の糸口が見つかるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 軽度認知障害(MCI)〜認知症のはじまり〜

 

 

日常生活の中で、家族(もしくは周囲の人)が「もしかして、認知症?」と考えるのはどのような場面でしょうか?

 

 

□ 5分程度の会話の中で3回も同じ話をした

 

 

□ 新しいスマホにしたら使い方を覚えられない

 

 

□ しばしば財布や鍵をなくす、よく捜し物をしている

 

 

□ 度も日付や曜日を確認する

 

 

□ 常にお札で支払うため、財布の中が小銭でいっぱいになっている

 

 

□ 鍋を焦がした

 

 

 

 

実際、これらは認知症の初期症状としてあり得るものです。

 

 

ただ、このような場面が日常生活にあったとしても、生活そのものは概ね従来通り自立的に送ることができていれば、認知症との診断にはなりません。

 

 

こうした状態は、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)と呼ばれます。

 

 

とはいえ、MCIは認知症の前段階であり、認知症に移行しやすい状態であることは間違いありません。

 

 

実際「MCIの状態にある人の約1割が、1年ほどで認知症に移行する」と言われています。

 

 

「まだ自立的に生活できているMCIの段階で認知機能障害の進行を食い止めることができれば…」とは、誰もが願うところです。

 

 

認知症の過半数を占めるアルツハイマー型認知症においては、令和5年12月、MCI~軽度認知症の患者さんを対象とした新薬が使用開始となりました。

 

 

これが認知症医療にとっての福音となるのか。治療に参加された患者さんの臨床経過に注目しています。

 

 

 

 

 

 

■ 認知症の重症度

 

「先生、父の認知症はひどいんでしょうか?」 

 

 

初めて来院された患者さんの家族からよくされる質問です。

 

 

はじめに示したとおり、認知症とは、生活上、支障を来した状態、すなわち、生活障害です。

 

 

ですから「普段の生活の中でどの程度の支障を来しているか?」が、そのまま認知症の重症度になります。

 

 

癌などの疾患に見られるような、発見されたときにはすでに末期状態だったといったことにはならないのです。

 

 

 

認知症の重症度について簡単に説明すると、

 

 

 

軽度 …… 社会的な生活は難しくなってくるが、家庭内では概ね自立した生活ができる。例:目的にかなった買い物ができなくなる、友人との出かける約束を忘れてしまう

 

 

中等度 …… 家庭内でサポートを要する。例:適切な衣類を選べない、入浴に声かけを要する、服薬にサポートを要する 

 

 

度 …… 身の回りのことを含め、サポートなしで日常生活を送ることは難しい。例:着衣や排泄に介助を要する、指示を理解できなくなる

 

 

 

となります。

 

 

認知症のおよそ半数を占めるアルツハイマー型認知症はその罹病期間は10年前後です。

 

 

診察においては、神経心理学的検査(記憶、見当識、実行機能などを計測する検査:長谷川式認知症スケールなど)を行い、どういった中核症状があるかを調べ、その総合点を重症度の目安としています。

 

 

 

 

 

 

以上、ざっくりと認知症について説明してまいりました。

 

 

 

認知症について押さえておきたいことは、

 

 

 

□ 認知症は脳の障害によって、生活障害を来した状態である

 

 

□ 認知症には様々な原因疾患がある

 

 

□ 認知症は通常不可逆であり、加齢とともに徐々に進行する

 

 

□ “治る”認知症に対しては、早期の発見と対応が重要である

 

 

□ 認知症の症状には「中核症状」と「周辺症状」がある

 

 

□ 周辺症状は、中核症状を抱えた患者さんが置かれた状況の中で引き起こされる行動の障害であり、精神障害である

 

 

□ 認知症の重症度は、生活障害の程度が目安となる

 

 

 

 

 

合理的なものの考え方に慣れた私たちは、認知症の人の言動を理解し、受け入れることが簡単ではありません。

 

 

認知症という疾患を理解することによって、認知症の人の立場に立ってその言動を考えることができるようになります。

 

 

そのことが認知症の人への対応の第一歩になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たまゆらメモリークリニック 小粥正博

 

 

 

 

 

認知症専門/診療内科・老年精神科・精神科 たまゆらメモリークリニック

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